「あの3人組を見てみろよ。『類を以て集まる』というか髪型も持ち物も歩き方まで一緒だぜ」と使う。
類を以て集まる(るいをもってあつまる):似た者同士は自然に寄り集まるということ。また,善人のまわりには善人が集まり,悪人は悪人同士で仲間になるということ。いろはかるた(京都)の一。(新明解故事ことわざ辞典)
日常生活で感じる「似た者同士は自然に寄り集まる」感は否めない。
しかし,いったい何が似ているのか?なぜ似ていると集まるのか?集ったから似てしまったのではないのだろうか?などの疑問は湧く。
人口に膾炙(かいしゃ)している割には,論理の不明確な成語である。原文で確かめてみよう。
原文は【
方以類聚,物以羣分,吉凶生矣。】周易繫辭上
方は類を以て聚(あつま)り,物は群を以て分かれ,吉凶を生ず。と読める。
では方とは何か?前文を読んでみよう。
前文は易の言辞に関する補足の形で書かれた文であるので易の考え方を押さえながら解釈してみたい。解釈には明治書院新釈漢文大系易経下を参考にした。
『(天は高くして上にあって万物を覆い,地は低くして下にあって万物を載せている。)
天は高い(これを陽)とし,
地は低い(これを陰)とすれば(陰陽説に従ってもっとも陽である)
乾と(もっとも陰である)
坤が定まる。(天と地の間にあるもの,すなわち万物は)低い場所から高い場所まで秩序をもって列なっており,その位置によって
貴賤が定められる。(天と地の間で起こるできごと,すなわち万象には陽である)
動(うごくものと陰である)
静(うごかないもの)が常にあり,(万物は陽である)
剛(かたいものと陰である)
柔(やわらかいもの)に分かれている。(万象は善に向く場合と悪に向く場合があり)その方向を種類によって集め,(万物は善である)物(と悪である物)の群に分けて,(この組み合わせによって)吉凶が生まれる。』
つまり,方とは善悪の分類の仕方で,同じような事象を集めたものということになる。
論理は明確になった。
疑問の答えは,
Q1いったい何が似ているのか? A1(善悪の向かう)方向が似ています。
Q2なぜ似ていると集まるのか? A2そうは言っていません。(向かう方向が同じだと)同じに類に見なしているだけです。
Q3集ったから似てしまったのではないのだろうか? A3いいえ,方向が同じだけで,同じ場所かどうかは問題にしていません。
となる。
まったく質問の答えになっていない。
もしかすると,命題の「類を以て
集まる」は偽であって「(方は)類を以て
集める」が真ではないか。私には易の理解は当分できそうにない。
ただし,陽と陰(あるいは善と悪)など森羅万象を簡単に区別できるフレームワークを考えることは有意義である。
さて,政府与党と野党は
乾坤一擲,
雌雄を決する,
白黒をつける,
一か八か,
伸(の)るか反(そ)るかの大
勝負だと言っている。(陰陽説に基づく対決の構造は案外多い)
だが,両者が向かう方向の違いはよく見えない。未だ類を以て集まる域を脱していないのだ。
原文:【天尊地卑,乾坤定矣。卑高以陳,貴賤位矣。動靜有常,剛柔斷矣。方以類聚,物以羣分,吉凶生矣。】