2009年01月30日
(む)矛盾
「だけど『平和のための戦争』って矛盾してないか?報復の繰り返しで死体は増える一方だ。」
矛盾(むじゅん):前に言ったことと後に言ったことのつじつまが合わないこと。
論理が一貫しないこと。矛=やり・ほこ。盾=たて。
『楚の国の人が矛(ほこ)と盾(たて)を売っていた。
その商人は盾を自慢して「この盾はとても堅く,どんなものでも突き通すことはできない。」と言った。
次に矛を自慢して「この矛はとても鋭く,どんなものでも突き通すことができる。」と言った。そこである人が
「では,その矛でその盾を突いたらどうなるのか?」と聞くと,商人は答えることができなかった。』韓非子
(新明解故事ことわざ辞典)
高く買ってもらうための誇張を逆手に取られた格好だ。
けれど,商人は黙ってしまうのではなく,こう答えるべきではなかったか。
「そうなんですよお客さん,私も大変興味があります。ぜひ両方とも買って試してみてください。」
矛か盾の片方だけを置いていたら,あるいは時間をずらして売っていたら,この矛盾は発見も証明できない。
一人の人間が同時に両方を揃えてしまったことが,問題を発生させたのである。
さて,現代日本の経済政策(金融)の矛盾を一つ上げよう。
発端は,BIS規制である。これによって次の命題が与えられた。
「銀行は,①債権を時価評価し,②不良債権を早急に処理し,③十分に貸倒引当金を積み,その上で自己資本比率8%を維持すること。」
①は債権の価値が減少すると資産が減り,自己資本が減る。
②は不良債権を処理すると利益が減少し,自己資本が減る。
③は負債が増加し(又は資産が減少し),自己資本が減る。
「自己資本が減ることをしながら,自己資本を維持する。」これが第1の矛盾である。
自己資本比率が8%より低いと国際業務ができない。
それで,公的資金を7.5兆円を投入し,自己資本を強化する。
「経営の知恵や努力でなく,国民の金で体裁を繕った。」これが第2の矛盾である。
...これは今回の緊急経済対策ではない。1999年に行われたことである。
それによって,
①~③の危険が高いところ(倒産しそうな会社,自己資本の小さい会社..)には貸出さなくなる。
これが「貸し渋り」「貸しはがし」の実態である。
資金のない会社は事業の拡大ができなくなる。資金繰りに困った会社は倒産する。
銀行の使命は,預金者から資金を調達し企業に貸し出すこと(間接金融)だが,
「本来の使命を放棄し,預かった資金を金融証券に投資した」これが第3の矛盾である。
以上が「失われた10年」の金融視点の側面と矛盾の連鎖である。
10年後成立した今回の二次補正予算の中身は
④資金繰り対策(信用保証協会の緊急保証枠他) 30兆円
⑤銀行等保有株式取得機構の政府保証枠 20兆円
⑥改正金融機能強化法に基づく国の資本参加枠 12兆円
であった。わかりやすく言うと
④中小企業への貸出は焦げ付いたら国が保証するから,不良債権になることがない。
⑤銀行が持っている値段の下がった株式は国が買い取るから,資産は目減りしない。
⑥それでもだめなら資本を注入する。または国有化する。
ということなのだ。10年経って7.5兆円が62兆円に増えてしまった。
小さな矛盾の積み重ねが大きな不条理を生んでいるのだ。
2兆円ごときで騒いでいる場合ではない。
政-官-業,利権連鎖の盾はいよいよ強靭になっている。
ブログごときのひ弱な矛では針の先ほどの傷もつくまい。
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【人有鬻矛與楯者,譽其楯之堅,物莫能陷也,俄而又譽其矛曰:‘吾矛之利,物無不陷也。’人應之曰:‘以子之矛陷子之楯何如?’其人弗能應也。”】韓非子難勢
矛盾(むじゅん):前に言ったことと後に言ったことのつじつまが合わないこと。
論理が一貫しないこと。矛=やり・ほこ。盾=たて。
『楚の国の人が矛(ほこ)と盾(たて)を売っていた。
その商人は盾を自慢して「この盾はとても堅く,どんなものでも突き通すことはできない。」と言った。
次に矛を自慢して「この矛はとても鋭く,どんなものでも突き通すことができる。」と言った。そこである人が
「では,その矛でその盾を突いたらどうなるのか?」と聞くと,商人は答えることができなかった。』韓非子
(新明解故事ことわざ辞典)
高く買ってもらうための誇張を逆手に取られた格好だ。
けれど,商人は黙ってしまうのではなく,こう答えるべきではなかったか。
「そうなんですよお客さん,私も大変興味があります。ぜひ両方とも買って試してみてください。」
矛か盾の片方だけを置いていたら,あるいは時間をずらして売っていたら,この矛盾は発見も証明できない。
一人の人間が同時に両方を揃えてしまったことが,問題を発生させたのである。
さて,現代日本の経済政策(金融)の矛盾を一つ上げよう。
発端は,BIS規制である。これによって次の命題が与えられた。
「銀行は,①債権を時価評価し,②不良債権を早急に処理し,③十分に貸倒引当金を積み,その上で自己資本比率8%を維持すること。」
①は債権の価値が減少すると資産が減り,自己資本が減る。
②は不良債権を処理すると利益が減少し,自己資本が減る。
③は負債が増加し(又は資産が減少し),自己資本が減る。
「自己資本が減ることをしながら,自己資本を維持する。」これが第1の矛盾である。
自己資本比率が8%より低いと国際業務ができない。
それで,公的資金を7.5兆円を投入し,自己資本を強化する。
「経営の知恵や努力でなく,国民の金で体裁を繕った。」これが第2の矛盾である。
...これは今回の緊急経済対策ではない。1999年に行われたことである。
それによって,
①~③の危険が高いところ(倒産しそうな会社,自己資本の小さい会社..)には貸出さなくなる。
これが「貸し渋り」「貸しはがし」の実態である。
資金のない会社は事業の拡大ができなくなる。資金繰りに困った会社は倒産する。
銀行の使命は,預金者から資金を調達し企業に貸し出すこと(間接金融)だが,
「本来の使命を放棄し,預かった資金を金融証券に投資した」これが第3の矛盾である。
以上が「失われた10年」の金融視点の側面と矛盾の連鎖である。
10年後成立した今回の二次補正予算の中身は
④資金繰り対策(信用保証協会の緊急保証枠他) 30兆円
⑤銀行等保有株式取得機構の政府保証枠 20兆円
⑥改正金融機能強化法に基づく国の資本参加枠 12兆円
であった。わかりやすく言うと
④中小企業への貸出は焦げ付いたら国が保証するから,不良債権になることがない。
⑤銀行が持っている値段の下がった株式は国が買い取るから,資産は目減りしない。
⑥それでもだめなら資本を注入する。または国有化する。
ということなのだ。10年経って7.5兆円が62兆円に増えてしまった。
小さな矛盾の積み重ねが大きな不条理を生んでいるのだ。
2兆円ごときで騒いでいる場合ではない。
政-官-業,利権連鎖の盾はいよいよ強靭になっている。
ブログごときのひ弱な矛では針の先ほどの傷もつくまい。
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【人有鬻矛與楯者,譽其楯之堅,物莫能陷也,俄而又譽其矛曰:‘吾矛之利,物無不陷也。’人應之曰:‘以子之矛陷子之楯何如?’其人弗能應也。”】韓非子難勢